私達のストーチー
はじまりはコーヒーではなく、ひとつの「選択」でした。
フライハイコーヒーが生まれる前から、
私たちの中にはずっと「何かが足りない」という違和感がありました。
見た目は順調でも、心から大切にしたい価値観と、
毎日の仕事や生き方がかみ合っていない——そんな感覚です。
コーヒーを選んだということは、
「生き方そのものを選び直す」ということでもありました。
自分の時間と仕事と夢が、ようやくひとつにつながるような生き方を選ぶこと。
このページでは、その選択の物語と、そこに至るまでの葛藤、
そして今のフライハイコーヒーを形づくってきた歩みをお話しします。

1. 「成功」がしっくりこなかった頃
この物語は、コーヒーから始まったわけではありません。「何かが違う」という小さな違和感から始まりました。
外から見ると、私たちの人生は「整っている」ように見えました。私は自分の歯科医院を持ち、大学で教えていました。妻はブラジルで日本語の先生をしていました。安定した収入、肩書き、将来の見通しもちゃんとある――
そんな生活でした。
けれど、心の中ではずっと何かが引っかかっていました。
大学には政治と官僚的な仕組みがあふれ、クリニックは「人」より「利益」を優先するフランチャイズのモデル。気づけば私は、自分の大切にしたい価値観と合わない仕事に人生のほとんどの時間を使っていることに気づきました。それは、静かに心をすり減らしていく毎日でした。
問題は仕事だけではありませんでした。暮らしていた街もどんどん危険になり、命の危険を感じるような出来事が身近で起こるようになりました。「このままではいけない」——そう強く思うようになったのです。
2. たった30分が変えてくれたこと
そんな現実の中で、私たちが心から楽しみにしていた時間がひとつだけありました。それは、ランチのあとに立ち寄るカフェでの、わずか30分。
挽きたてのコーヒーがふわっと香る瞬間。静かで落ち着いた空気。世界の時間が、少しだけゆっくり流れ始めるような感覚。
その小さな儀式のような時間への「好奇心」から、私たちはコーヒーの世界に深く惹き込まれていきました。いくつもの講座に通い、カッピングを重ねるうちに、コーヒーは「ただの飲み物」ではなくなり、いつしか「追いかけたいもの」になっていたのです。
そしてある時、はっきりと気づきました。「これまで築いてきたものをすべて手放しても、コーヒーの仕事に人生を賭けたい」と。
もちろん、怖さがなかったわけではありません。それでも、人生の終わりに「本当はやってみたかったのに」と後悔することの方が、よほど怖かったのです。


3. 日本で、ゼロからのスタート
私たちは日本に渡り、コーヒー焙煎所を始めることにしました。計画はシンプルでした。「おいしいコーヒーを焙煎し、カフェやレストランに届けること」。ところが、現実はとても厳しいものでした。多くのカフェはすでに自家焙煎をしていて、多くのレストランは品質よりも価格を重視していました。私たちは誇りを持てるコーヒーを焼いているのに、それを買ってくれる相手がほとんどいない――。
スタートしたばかりなのに、すでに行き場を失っているような感覚でした。それでも、戻ることはしませんでした。「やめる」のではなく、「形を変える」。焙煎所をそのままカフェへと変えることにしたのです。それは、立派な戦略というより「生き残るための選択」でしたが、振り返れば、それこそがフライハイコーヒーの本当の始まりでした。
この過程で、ひとつの痛みを伴う真実にも気づきました。小さなカフェのオーナーは、自分の「夢」の囚人になりやすいということ。休む間もなく働き続け、人を雇う余裕もなく、いつもギリギリの状態で、気づけば自分の人生をお店にすべて捧げてしまっている――。
それは遠くから見て学んだことではなく、私たち自身が実際に味わった現実でした。そしてそれは、多くのローカルカフェの夢が静かに終わってしまう理由のひとつでもあります。
それでも――15年たった今も、私たちはここにいます。フライハイコーヒーは、その現実への私たちなりの答えです。
4. フライハイコーヒーという「生き方」
私たちは、世界中のコーヒーのすべてを変えることはできません。
けれど、「この場所の中の世界」を変えることはできる——そう信じています。
コーヒー豆を育て、収穫し、精製してくれる人たちに敬意を払うこと。ここで働くスタッフの人生が壊れてしまうのではなく、むしろ豊かになっていくようなお店にすること。そして、「お客様」としてではなく、それぞれに物語や重荷や、「ほんの少しでいいから分かってほしい」という静かな願いを抱えたひとりの人として、お迎えすること。
それが、私たちが大切にしたい「フライハイコーヒーのあり方」です。
私たちは特別な人間ではありません。完璧でもありません。ただ、自分たちの価値観に少しでも近い生き方を選び、学び続け、工夫し続け、自分たちが生み出したい「しあわせ」に責任を持とうと決めた、ふつうの人間です。
自分たちのために。一緒に働く仲間のために。コーヒーに関わるすべての人のために。そして、ここに訪れてくださるあなたのために。
これが、フライハイコーヒーの始まりの物語です。この先のストーリーは、まだ続いていきます。一杯のコーヒー、一皿のスイーツ、そして小さくてもかけがえのないひとときの積み重ねとして。
もし、この物語があなたの心に少しでも響くなら、その続きを一緒に紡いでいただけたらうれしいです。ぜひ一度、フライハイコーヒーに会いに来てください。
